2009年10月26日 (月)

西松建設事件の和解―戦後補償事件解決への新たな一歩

 最近、不正献金疑惑で話題になっていた西松建設(株)は、中国人強制連行事件の被告として糾弾され、原告らと対峙して来たことでもよく知られた企業である。先週、10月23日、その西松が強制連行の被害者に対して和解金の支払いに応じたと発表された。同社のホームページによれば、2億5千万円を「西松安野友好基金」として自由人権協会に信託し、被害者360人に対して一括して和解金を支払うこととした、との内容である。

 この事件は、中国人の原告らが太平洋戦争末期に中国から強制連行されて、広島県内の水力発電所の工事現場において建設作業員として過酷な重労働を強制された上、幾人かの死者を出すなどのことに対して損害賠償を被告西松建設側に求めて争った事件である。原告らは戦後の混乱の中で補償も受けずに、時が経過して訴訟を提起したが、法解釈の壁は厚く事実上、救済が与えられずに今日に至っている。

 第1審では、消滅時効の援用により原告の請求を斥けた。控訴審においては、原告の請求を容認する判断を示していた中で、最高裁は2007年4月27日の判決により1972年の日中共同宣言及び1978年の日中平和条約の規定により中国政府が日本に対する戦後賠償請求権を放棄したことによって、個人の請求権も放棄させられたとの解釈によって、原告らの請求権を否定する判断をしめしていた。

 また、最高裁は、日中両国間の基本関係を定めた「日中平和友好条約」(1978年)にはサンフランシスコ平和条約のごとき賠償放棄を定めた規定が存在しないにもかかわらず、賠償放棄に言及している日中共同声明(1972年※[1])に法的効果を認め、サンフランシスコ平和条約14条b号[※2]と同様の賠償放棄条項が日中間にも妥当するとの解釈を示した。これは、いわば相当の「こじつけ」的又は「離れ業的な解釈」であったように思われる。この判断により、以後、一連の戦後補償裁判において原告側の勝訴の機会は奪われることになっていた。ただし最高裁判決も原告らの置かれた状況に一定の理解を示し、被告企業に対して和解に応じるようにとの付言していたことは重要である。

 今回、西松建設側が企業体質を変えて、企業の社会的責任を考慮することにより今回の和解に応じたことは大変歓迎するべきことである。民主党の小沢一郎代表(当時)に対する不正献金疑惑等によって重大な社会的な責任を追及された結果、最近、同社がこれまでの態度を改めたことが影響を与えたと思われる。そうだとすれば、今回の企業側の譲歩は、瓢箪から駒という面もあるかもしれないが、コンプライアンスを実践した結果として高く評価されよう。戦後補償事件でのブレイク・スルーとなりうる画期的な和解である。 戦後責任裁判において中国や他の諸国からの訴訟において敗訴した事案についても、今回のような和解という手段により実質的な補償を措置していくべきであると考える。

 他方で、戦後責任の問題は、一企業だけの責任ではなく、戦争遂行のために労働力を確保するために、日本国が行った国策と深く関係している。そう考えるならば、国がこの問題に対して何もしないということが問題であろう。

※1 【日中共同声明第5項】

「中華人民共和国政府は、中日両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」

※2 【サンフランシスコ平和条約14条b号】 

 「この条約に別段の定がある場合を除き、連合国は、連合国のすべての賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民がとつた行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連合国の請求権を放棄する。」

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2009年10月23日 (金)

大学キャンパス上空に現れたヘリ編隊

 Ca390156 10月22日(木)午前11時15分ころ、1時限目の講義を終えて学内を移動していると突然、あたり一帯に轟音が響いてきた。ヘリコプターの爆音であるが尋常ではない。空を見上げるとなんと大型ヘリが編隊を組んで飛んできた。

 即座に携帯電話を取り出してシャッターを切ろうとしたが、なにせ携帯のカメラ機能では即座に対応するのが困難。あれよという間に過ぎ去ってしまった。それでもどうにかシャッターを押した。
 

Ca390158 と思っていたら、また爆音が響いてくる。第2編隊がやってきたのである。再びシャッターを切った。

 写真ではトンボのようにも見えるが、これらは米軍の横田基地に向かうヘリの編隊だと思われる。キャンパス上空は横田基地に向かう米軍機の侵入ルートになっていて、日常的に輸送機やヘリが飛んではいるのだが、大規模なヘリ編隊の低空飛行は初めて目撃した。
 思えばちょうど、ゲーツ国防長官が訪日中。横田基地で関連行事でもあるのかも知れない。

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2009年10月12日 (月)

アスペルガー症候群のハッカーの運命は?米国への引渡をめぐる訴訟

1 ペンタゴンのコンピュータに侵入したハッカーを米国に引き渡すことは可能か?10月9日(金)英国の高等法院は、引渡に対して最高裁への異議申立を最終的に棄却する判断を示した。

2 北ロンドンに住むゲイリー・マッキノン(Gary McKinnon)氏(43歳)は、同時多発テロ以後の2001年から02年にかけて米国国防省(ペンタゴン)や航空宇宙局(NASA)のコンピュータネットワークに侵入してハッキング行為を行ったことにより米国に犯罪人として引き渡されるかどうかの瀬戸際にいる。

3 ペンタゴンなどへのハッキング行為に対して米国は、自国の裁判所において訴追するために英国当局に対して同氏の身柄を引き渡すよう請求していた。英国内務省は、引渡に応じる決定を行ったので、マッキノン氏側は、引渡が不当として争っていた。

4 今回、英国高等法院(High Court)は、マッキノン氏側からの引渡決定に対して最高裁判所(Supreme Court of the United Kingdom, 2009年10月1日設立されたばかり) への上告を棄却した。これによって、同氏に関する申立については、英国の国内的な法的手段を全て尽くしたことになる。最高裁への上告棄却の理由は、「一般的に重要な法律上の問題」を提起していないという点にあるとされた。

4 マッキノン氏は、ただ単にUFOや地球外生命体に関する情報を得るために好奇心からハッキングを行っただけであり、たまたまペンタゴンなどのコンピューターのセキュリティが緩いから侵入できてしまっただけだし、決してテロリストではないと主張している。また、弁護人は、マッキノン氏がアスペルガー障害を抱えるため米国での裁判に耐えられないので、英国において裁判を受けさせるようにと主張している。仮に米国に引き渡されると、最悪の場合60年刑務所で過ごさなければならなくなる恐れがあるとも伝えられている。

5 米英間の犯罪人引渡条約では、自国民も引き渡すlことができるので、このような事態も十分に予想されるところであろう。弁護士は、最終的手段として内務大臣に対する請願とヨーロッパ人権裁判所に本件の審理を付託することにしていると伝えている。

6 ヨーロッパ人権裁判所の判例では、かつて米国で殺人を犯して英国に逃亡中に身柄を拘束されたドイツ人の青年(Soering対英国事件)の引渡をめぐる事件で、仮に米国に引き渡された場合には、死刑の宣告を受けるおそれに直面することにより非人道的取扱いを禁止する人権条約(3条)違反であると判示したことがある。仮に、ヨーロッパ人権裁判所において本件が繋属するかどうが同氏の運命の分かれ目となるだろう。仮に申立が受理された場合に、人権裁判所が実質審査に進むのかどうかも注目される。

7 海の向こうの事件ではあるが、日本人のハッカーがわが国領域内からペンタゴンのコンピュータシステムに侵入して米国の国家的利益に損害を与えたならば、米国は日本に対してやはり引渡を求めてくるに違いない。

Times Online
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/crime/article6867844.ece

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2009年9月22日 (火)

ゼミ合宿

20日から今日22日までの間、2泊3日で長野県信濃町の野尻湖畔において法学部のゼミ合宿中である。

総勢26人でバスを借り切って20日の朝に中央高速を北に向かって走り続け、約5時間かかって到着した。その後、夕食前に、2時間、夕食後に約4時間のゼミ報告と質疑応答を行い、昨日も8時半から12時半までの4時間のゼミを行った。

今年のゼミでは、「国際人権、人道秩序の再構築」という共通テーマの下に4つのチームを設け、各チームごとに次のテーマについて順次報告を行った。

Cimg2065

①国連のミレニアム開発目標と初等教育の普遍的達成について

②パレスチナ紛争における人権保障と武力紛争法の解釈適用

③ジェノサイド犯罪に関する旧ユーゴスラビア国際刑事法廷と国際刑事裁判所におけるジェノサイド罪の位置づけなどに関する報告、

④外国人労働者の人権問題

各報告者ごとの多少のばらつきはあるが、総じて見て今後のゼミ論への基礎となる有益な勉強成果を示してくれたものと思う。

今日の午後には、野尻湖畔を貸切バスで出発する。交通渋滞が予想されるため帰着は日暮れをとっくに過ぎているだろう。

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2009年9月19日 (土)

夏期集中講義(熊本大学にて)

9月14日~18日まで熊本大学法学部にて集中講義(特殊講義・国際人権論)を行ってきた。1日3時限の授業を5日連続で行うという、聴講する側も、講義を行う側もハードなスケジュールだ。体力がものをいう授業。学生も1日、90分授業を3コマ続けて聴くのは集中力を求められる。

朝、8時40分から1時限目の授業が始まるので、3限目が終わると、その後は若干の時間の余裕がある。熊本市内を散歩したり、最後の18日の授業の後には、元同僚教授の運転で日奈久温泉にまで連れて行ってもらった。Otatemisaki_02

それらの模様は、アルバム写真として当ブログに掲載した。

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2009年8月 1日 (土)

嘉手納基地内法廷見学

1.7月30日(木)に米軍の嘉手納基地(第18航空団"18th Wing"という)を訪問して、基地内の裁判所の視察をしてきた。

2.我々は、琉球大学の法科大学院の教員と学生を中心として20数名で訪れた。基地のゲートで身分証のチェックを受けてから、基地内の法廷があるKADENA Law Centerと表示された建物に案内された。まずスタッフに挨拶に続いて、基地の概要についての説明を受けた。嘉手納基地は米空軍の最大規模の戦闘部隊である第18航空団を中心とする様々なテナント部隊(陸軍、海軍、海兵隊を含む)の本拠地として位置づけられている。

3. 配布された案内パンフレットによれば、基地の人員は総勢24,300人に上り(空軍の現役2009_0730_1_3 軍人が7000人、その家族が12000人、他軍(1000人)、軍属(1800人)、日本人従業員(3300人)、地元民間契約業者(約1000人)に達する規模であり、司令部のある横田基地よりも遙かに規模が大きく、実戦部隊である。つまりF15 戦闘機が54機、KC135Rストラトタンカー(空中給油機)15機、AWACS早期警戒機1~2機が配備されている。視察の当日も、今話題のF22戦闘機が12機も飛来していて、写真撮影は遠慮してくれとの話もあったぐらいである。(実は滑走路に駐機中の機体を垣間見ることはできた。)
 
4. 沖縄がいかに実戦に即した世界戦略上の要石であるかが、これらの装備によっても具体的に例証されている。

5. さて、米軍基地内の法廷見学に話しを戻す。基地内の法廷の規模は、小中学校の教室ぐらいのスペースに裁判官席、陪審員席、検察官席、弁護人席、証言台それに傍聴席などが配置されている。

6. 我々一行に対する説明のため、基地内の「法務官」(judge advocate)という法律専門官の方が5人出席された。トップの責任者は当日は不在であったが、それに代わる上級の法務官(中佐)が中心になって全体の説明を受け、個別の問題について刑事、民事、環境問題等の個別の領域ごとに担当法務官の方から説明を受けた。

7. 法廷は、基地が直面する様々な問題を扱っており、兵員の懲戒や刑事裁判だけでなく民事事件、労働事件、環境紛争等さまざまな事項について扱うとの事であった。

8. 彼ら法務官は、米国のロースクールの修了生であって弁護士資格を有している。周知の通り、米国の弁護士資格制度は各州ごとに異なるが、軍隊内では主に連邦法が適用されるので、いずれの州の弁護士資格を有する場合でも、連邦法に関連する法実務には携わることができるらしい。

9. 米国の弁護士資格者は100万人以上いるとのことであるが、米国の弁護士が様々な場面において活動する場が与えられていることを実感した。わが国の弁護士人口は、2万7千人でしかなくても、法科大学院を修了して難関の試験を突破した人でも就職難という壁があることを思うと、彼我の差を感ぜざるを得ない。

10. 個人的に関心のある問題は、基地の外で米軍兵士が行った犯罪に対する捜査権、裁判権の帰属の問題をどのように調整し交渉しているか、というような問題である。そのような在日米軍に関する地位協定の解釈、適用に関わるような問題については東京(横田基地にある第5空軍司令部のことか)が担当しているという答えてかわされてしまった。

11. 実は、7月31日の新聞で報じられたように、30日には、横浜地裁において横須賀基地を脱走した米兵によるタクシー強盗事件の判決が下された。被告人に対しては、求刑通り、無期懲役の判決が下された。この事件にもあるとおり、依然として基地の周辺自治体にとっては大きな問題である。新聞記事によれば、脱走兵の情報公開などの地元自治体から要求が出されているのに対して、米軍側はそれに応じていない。地元の沖縄タイムズではこの報を1面トップで扱っていたように基地周辺の自治体等の関心は高い(朝日の東京版では3面記事で小さく扱われていたにすぎない)。

12. やや横道にそれるが、兵士の脱走にも様々な理由があると考えられるので、事はそれほど単純でもないように思われる(かつて北朝鮮に渡ったという理由で、脱走兵として扱われたジェンキンス氏の話もある)。日本の警察当局は脱走兵の情報を得た上で、その身柄を拘束した場合には、米側にほいほいと引き渡せば済むのか?場合によっては米軍側に簡単には引き渡してよいかどうか疑問が生じる場合もあるだろう。そのような場合に、もし引渡してしまえば、軍法の下で犯罪者として扱われることになり、厳しく処断される恐れがあるともいえる。

13. いずれにしても、わが国の現状においても基地に関して様々の問題を抱えており、未解決の懸案が多々ある。

14. 以上、米軍嘉手納基地視察に関するまとまりのないレポートである。

 

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2009年7月29日 (水)

沖縄より

 今日の夕方、沖縄の那覇空港に到着した。

 明日、琉球大学の法科大学院の企画として米軍の嘉手納基地内の軍事法廷を見学する機会を設けたのでそれに便乗して見学に参加させてもらうこととした。
 
 実は、米軍の軍事裁判所の役割については、いろいろ議論がある中で正直言って分からない点も多い。日本人にとっては、秘密のベールに覆われた法廷というイメージであろう。それだけに、米軍基地内の軍事裁判所の見学という機会はおそらく滅多にないことなので、それだけでも貴重である。
 
 Cimg1841わが国では、沖縄駐留米軍の兵士による犯罪が起きるたびに裁判管轄権をめぐって重大な問題を抱えているが、軍事裁判所が注目されるゆえんは、他にもある。特に、米国本国では、数年来、ブッシュ政権の下で行われてきたテロリスト容疑者の拘禁と軍事裁判の合法性を巡って大きな議論がある。 オバマ政権になってから、テロリスト容疑者の軍事法廷による裁判についても方針の転換がなされているとは聴くがその辺りの問題も興味あるところだ。  

 いずれにしても明日の見学を期待している。

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強制失踪(拉致を含む)禁止条約の批准承認

 先の国会においてわが国政府が国会に提出していた「強制失踪禁止条約」が6月に衆参両院で批准・承認を経て、7月23日、国連本部への寄託が行われることにより批准手続が完了した。わが国は12番目の締約国となった。

http://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?src=TREATY&mtdsg_no=IV-16&chapter=4&lang=en

 本条約は、正式には「強制失踪からのすべての人の保護のための条約(The International Convention for the Protection of All Persons from Enforced Disappearances)」という。
 
 本条約は、2006年12月20日国連総会によって採択され、7月29日現在では13か国が批准を済ませているが、現時点では20か国の批准を得ていないために未発効である。発効前の段階でわが国が人権関係の条約を批准したのは初めてではないかと記憶する。とにかく、所定の20か国の批准は程なく得られて、近く発効するものと思われる。
 
 本条約の狙いは、北朝鮮による拉致などを含むいわゆる「強制失踪」(enforced disappearance)の対象とならない権利を明記し、組織的に行われる強制失踪を「人道に対する罪」として定めることにより、強制失踪との戦いにおける法的基準を提供することにある。
 
 そのため、強制失踪を防止し、処罰するための国家の義務を定め、国際犯罪として防止協力に当たる体制を構築することも主眼としている。被害者の保護についても、被害者指向的な枠組みを用意して、原状回復、損害賠償等の補償を受ける権利など具体的な規定を盛り込んでいるのも特徴である。

 本条約は、遡及効を有しないために、過去に行われた強制失踪(拉致を含む)に適用する訳ではないが、わが国が批准することによって拉致問題へのわが国のモラル的な立場を鮮明にする意義があるだろう。

 強制失踪問題は、日本人としては北朝鮮による拉致を結びつけて考えることはやむを得ない点もある。しかし、実は、国際的には、他の国や地域において毎年数万の規模で起きている問題が重大である。わが国としても、世界各地で起きている強制失踪問題についても、主導的な役割を果たすよう期待されていることも留意する必要がある。

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