人道的救援の権利?
ミャンマーをおそったサイクロンに続いて今度は中国四川省での大地震とアジアでの自然災害による人命の損失が続けざまに起こった。
特に、ミャンマー軍事政権は外国からの援助の受入に消極的な対応に終始し批判されているが、このような場合に、人命を救うために、国際的な救援活動を円滑に進めることがなぜできないのかと歯がゆく思う。
このような自然災害に伴う被災者を救援するために、「人道的救援権」という権利を具体化することが考えられるだろう。
国連総会は20年前の1988年のアルメニア大地震に際して、フランスの提案により「自然災害ならびに同種の緊急事態における犠牲者への人道的支援」と題する決議を採択して災害の犠牲者が緊急に必要とする食料、医薬品等の支給活動に当たっている国際機関、NGOを支援するようにすべての国家に呼びかけを行った(下記、ギョーム・ダンドロー著『NGOと人道支援活動』参照)。
さらに2006年のインド洋津波に際しては、国連は災害支援のために「国連中央緊急対応基金」(the UN Central Emergency Response Fund)を立ち上げて大規模自然災害による犠牲者、被災者支援の活動に助力する体制作りをやってきた。わが国もこれに財政支援をしてきた。この制度の前提として関係国(被災国)政府の同意がある。したがって、関係国政府の同意なしに緊急援助を行うことは実際にはほぼ不可能といっていよい。
このような場合の現行国際法の関連規定としては、非国際的武力紛争に関するジュネーブ諸条約第2追加議定書の18条が唯一参考となる。同条では、内乱等に際しての犠牲者を支援するための人道援助の受入について規定しているが、しかし、これらの努力も被災地国の政府が人道団体を受け入れることを前提として初めて機能することができるのである。政府の受入れ、つまり国家主権が壁となっている。
関係国政府の同意がない場合には、いかに人道的な緊急事態であろうと緊急援助物資を被災者に届けるための方法は、公式な政府間のレヴェルでは存在しない。これを敢えて強行しようとすれば、国連安保理が伝家の宝刀を抜くしかない。つまり、安全保障理事会による強制措置の発動という形をとるのである。しかし、これには1993年5月のソマリアに対する国連決議に基づく介入という失敗例がある。その時、実効的な中央政府が存在しない破綻状態の国家において、難民が大量に発生しているにもかかわらず人命を救うための方途が存在しない。その際、国連安保理の決議をもって人道的支援を貫徹するために軍事的介入(平和強制部隊[Peace Enforcement Unit]ともいう)をとったが、結局、国連の部隊そのものが現地の武力紛争に巻き込まれる形になり、多数の犠牲者を出すことになり、撤退を余儀なくされたのであった。
その後もソマリアは混沌とした状況が続いていたが、つい最近5月15日に国連安保理は再度PKOの派遣検討を求める決議を採択したと伝えられた。ソマリア暫定政府との協議が行われることになろう。
他方、軍事政権が実効支配を強めているミャンマーの場合には政権の同意なく、緊急援助を一方的に実施することは困難である。軍事政権に対して、国連を中心として説得を続けるしかないだろう。
今後も自然災害は、様々なものが予想される。その際に緊急援助を派遣し、受け入れることは、「人類全体に対する義務」(obligation erga omnes)でもあるとも言えるかもしれない。災害時の人命救援のための国際緊急援助に関する制度的枠組みを強化する必要があるだろう。
☆国連総会決議43/131
http://www.un.org/documents/ga/res/43/a43r131.htm
☆ギョーム・ダンドロー著(西海真樹、中井愛子訳)『NGOと人道支援活動』白水社、クセジュ文庫。
☆西海真樹「『人道的救援権』論」『法学新報』102巻3・4号, 1995.12, pp.187-221
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