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01/31/2011

イギリス政府、受刑者に選挙権を与える法案を準備中

 刑務所で服役中の受刑者にも選挙権を付与する法案提出をめぐって英国の政治情勢が揺れていることをご存知でしょうか。

 わが国でもそうなのですが、罪を犯した結果、有罪の宣告を受けて服役中の受刑者には地方選挙、国政選挙にかかわらず選挙権がありません。我が国では、公職選挙法の第11条によって「禁固以上の刑に服している者」は選挙権を持たないと定められているからです。

 一見のところ、受刑者が選挙権を行使することはできないというのは、特に問題がないといいうか、あたり前のようでもあります。つまり、「法を犯した者は、法を作る者を選ぶ権利をはく奪されても仕方ない」と思われるかもしれません。犯罪によって有罪とされた人は、法を作る過程に参加することが認められたら、犯罪者に有利な法ができてしまうかも知れません。しかし、実際には刑務所に収容されている人の数は、圧倒的に少数なのでそういう心配はないようです。

 では、受刑者には選挙権が認められないというのは、一見のところ常識のようなのですが、必ずしもそうではありません。ヨーロッパ諸国では、ドイツ、スウェーデン、オランダ、スイス、デンマークなどの18か国では、受刑者も無条件で選挙権が認められてるそうです

 また、刑期の長短などの一定の条件を付けて受刑者に選挙権を認めている国もあります。イタリア、マルタ、ポーランド、ギリシアなどの13か国です。

 イギリス、チェコ、ブルガリア、アルメニア、ロシアなどでは、受刑者には一切選挙権が認められていません。

 このようにヨーロッパでも各国の対応は一様ではありませんが、何らかの形で受刑者も選挙権を認めている国が多数派であることは間違いありません。かつて、受刑者に選挙権を認めていなかったアイルランドでは、最近、法律を変えて受刑者にも選挙権を認めるようになりました。

 ではなぜ、英国は今回、受刑者に選挙権を認める法案を審議しようとしているのでしょうか。それは、ヨーロッパ人権裁判所の判決によって、受刑者に選挙権を認めていないイギリスの法律がヨーロッパ人権条約に違反するという判決が下されたからです

 その判決は、イギリスの刑務所に服役中のハーストさんという受刑者が選挙権を行使できないのは、自由選挙を認めたヨーロッパ人権条約の規定に違反するとして訴えた結果、2004年(小法廷)と2005年(大法廷)によって下されたものです(Hirst v UK事件)。

 ヨーロッパ人権裁判所は、個人からの請求を直接受理して審査して、その結果、国家の側に人権条約違反があるかどうかを決定することができます。その判決は、国家に対して法的拘束力がありますので、ある国の法律が人権条約に違反していると判断されれば、その法律を変えなければなりません。

 昨年の時点で、判決が下されてから5年も経っていますのに、イギリス政府は、上記の判決を履行していませんでした。そこで、人権裁判所は、昨年11月23日に、改めて別の人からの同様の訴えを審理して、イギリスに対してもう一度、判決の履行しなさいという内容の判決が下されました。そして今度は、6ヶ月以内に法律を改正する案を国会に出しなさいと言いました。

 このような訳で、今、イギリス政府は、ヨーロッパ人権裁判所の判決に従うために、受刑者に選挙権を認める法案を提出する準備をしているのです。ところが、イギリス国民世論や与野党の政治家の中にも受刑者に選挙権を認めることに対する反対論や消極論が少なくありません。とくに最近のイギリスはテロ犯罪などの取り締まりが厳しく、受刑者=犯罪者の権利を拡張することには根強い警戒論があるのです。

 しかし、すべての受刑者に選挙権を認めなければならないということではありません。罪の重さ、犯罪の性質、刑期の長短などにより、一定の線をもうけることは認められるでしょう。そこで、刑期を4年で区切るか1年とするかでまた議論が紛糾しているようです。

 受刑者に選挙権を認めるということは、受刑者も私たちと同じ社会の一員であることを認めるということです。確かに、刑務所というのは閉ざされた世界ですが、私たちの社会の一部であることに変わりありません。たとえば、刑務所で受刑者によって作られた製品を、私たちも知らずに買ったり使ったりしているはずです。私たちも、知らずと受刑者の刑務作業の恩恵にあずかっているのかもしれません。

 10年とか無期刑とかいう、よほどの重い刑を宣告されて刑務所暮らしが長い人でも、刑期満了の近くに選挙があったら、やはり選挙権を認められてもいいと個人的には思うのですが、そこまではどうかと思う人も多いでしょうね。

 いずれにしても、イギリスでは受刑者に選挙権付与する法案が、近いうちに国会で審議されて可決されるはずです。そうしませんと、イギリスがヨーロッパから絶縁されてしまうかもしれません。そのようなことには、きっとならないでしょうが。

 わが国でも昨年末に元受刑者の方が刑務所に収容されていた時に選挙権を行使することができなかったことは憲法で保障されている権利を侵害されたとして裁判を起こしています。我が国が批准している自由権規約でも同様に選挙権についも規定していますので、この問題をめぐる国際的な動きは、我が国にとっても無縁ではありません。

参考BBC放送の記事:http://www.bbc.co.uk/news/uk-11674014

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