国際刑事法

2009年8月 1日 (土)

嘉手納基地内法廷見学

1.7月30日(木)に米軍の嘉手納基地(第18航空団"18th Wing"という)を訪問して、基地内の裁判所の視察をしてきた。

2.我々は、琉球大学の法科大学院の教員と学生を中心として20数名で訪れた。基地のゲートで身分証のチェックを受けてから、基地内の法廷があるKADENA Law Centerと表示された建物に案内された。まずスタッフに挨拶に続いて、基地の概要についての説明を受けた。嘉手納基地は米空軍の最大規模の戦闘部隊である第18航空団を中心とする様々なテナント部隊(陸軍、海軍、海兵隊を含む)の本拠地として位置づけられている。

3. 配布された案内パンフレットによれば、基地の人員は総勢24,300人に上り(空軍の現役2009_0730_1_3 軍人が7000人、その家族が12000人、他軍(1000人)、軍属(1800人)、日本人従業員(3300人)、地元民間契約業者(約1000人)に達する規模であり、司令部のある横田基地よりも遙かに規模が大きく、実戦部隊である。つまりF15 戦闘機が54機、KC135Rストラトタンカー(空中給油機)15機、AWACS早期警戒機1~2機が配備されている。視察の当日も、今話題のF22戦闘機が12機も飛来していて、写真撮影は遠慮してくれとの話もあったぐらいである。(実は滑走路に駐機中の機体を垣間見ることはできた。)
 
4. 沖縄がいかに実戦に即した世界戦略上の要石であるかが、これらの装備によっても具体的に例証されている。

5. さて、米軍基地内の法廷見学に話しを戻す。基地内の法廷の規模は、小中学校の教室ぐらいのスペースに裁判官席、陪審員席、検察官席、弁護人席、証言台それに傍聴席などが配置されている。

6. 我々一行に対する説明のため、基地内の「法務官」(judge advocate)という法律専門官の方が5人出席された。トップの責任者は当日は不在であったが、それに代わる上級の法務官(中佐)が中心になって全体の説明を受け、個別の問題について刑事、民事、環境問題等の個別の領域ごとに担当法務官の方から説明を受けた。

7. 法廷は、基地が直面する様々な問題を扱っており、兵員の懲戒や刑事裁判だけでなく民事事件、労働事件、環境紛争等さまざまな事項について扱うとの事であった。

8. 彼ら法務官は、米国のロースクールの修了生であって弁護士資格を有している。周知の通り、米国の弁護士資格制度は各州ごとに異なるが、軍隊内では主に連邦法が適用されるので、いずれの州の弁護士資格を有する場合でも、連邦法に関連する法実務には携わることができるらしい。

9. 米国の弁護士資格者は100万人以上いるとのことであるが、米国の弁護士が様々な場面において活動する場が与えられていることを実感した。わが国の弁護士人口は、2万7千人でしかなくても、法科大学院を修了して難関の試験を突破した人でも就職難という壁があることを思うと、彼我の差を感ぜざるを得ない。

10. 個人的に関心のある問題は、基地の外で米軍兵士が行った犯罪に対する捜査権、裁判権の帰属の問題をどのように調整し交渉しているか、というような問題である。そのような在日米軍に関する地位協定の解釈、適用に関わるような問題については東京(横田基地にある第5空軍司令部のことか)が担当しているという答えてかわされてしまった。

11. 実は、7月31日の新聞で報じられたように、30日には、横浜地裁において横須賀基地を脱走した米兵によるタクシー強盗事件の判決が下された。被告人に対しては、求刑通り、無期懲役の判決が下された。この事件にもあるとおり、依然として基地の周辺自治体にとっては大きな問題である。新聞記事によれば、脱走兵の情報公開などの地元自治体から要求が出されているのに対して、米軍側はそれに応じていない。地元の沖縄タイムズではこの報を1面トップで扱っていたように基地周辺の自治体等の関心は高い(朝日の東京版では3面記事で小さく扱われていたにすぎない)。

12. やや横道にそれるが、兵士の脱走にも様々な理由があると考えられるので、事はそれほど単純でもないように思われる(かつて北朝鮮に渡ったという理由で、脱走兵として扱われたジェンキンス氏の話もある)。日本の警察当局は脱走兵の情報を得た上で、その身柄を拘束した場合には、米側にほいほいと引き渡せば済むのか?場合によっては米軍側に簡単には引き渡してよいかどうか疑問が生じる場合もあるだろう。そのような場合に、もし引渡してしまえば、軍法の下で犯罪者として扱われることになり、厳しく処断される恐れがあるともいえる。

13. いずれにしても、わが国の現状においても基地に関して様々の問題を抱えており、未解決の懸案が多々ある。

14. 以上、米軍嘉手納基地視察に関するまとまりのないレポートである。

 

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2009年7月29日 (水)

沖縄より

 今日の夕方、沖縄の那覇空港に到着した。

 明日、琉球大学の法科大学院の企画として米軍の嘉手納基地内の軍事法廷を見学する機会を設けたのでそれに便乗して見学に参加させてもらうこととした。
 
 実は、米軍の軍事裁判所の役割については、いろいろ議論がある中で正直言って分からない点も多い。日本人にとっては、秘密のベールに覆われた法廷というイメージであろう。それだけに、米軍基地内の軍事裁判所の見学という機会はおそらく滅多にないことなので、それだけでも貴重である。
 
 Cimg1841わが国では、沖縄駐留米軍の兵士による犯罪が起きるたびに裁判管轄権をめぐって重大な問題を抱えているが、軍事裁判所が注目されるゆえんは、他にもある。特に、米国本国では、数年来、ブッシュ政権の下で行われてきたテロリスト容疑者の拘禁と軍事裁判の合法性を巡って大きな議論がある。 オバマ政権になってから、テロリスト容疑者の軍事法廷による裁判についても方針の転換がなされているとは聴くがその辺りの問題も興味あるところだ。  

 いずれにしても明日の見学を期待している。

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2007年11月13日 (火)

犯罪人引渡に関するセミナーでのコメント

犯罪人引渡条約において考慮すべき若干の問題

-自国民不引渡原則と人権原則-

20071029

ブラジル大使館・東京

北村泰三/Yasuzo Kitamura

1.はじめに

 さて、ただいま紹介されたように、私は、国際法の専門家なので、国際法的観点から日本とブラジルとの間の犯罪人引渡条約締結に関する諸条件について私見を述べたい。

 本日は、時間の制約もあるので、特に2つの問題、すなわち第1に、自国民を引き渡すことが妥当かどうかという問題(自国民不引渡の原則/the principle of non-extradition of nationals)と、第2に引渡に際して考慮すべき人権原則について言及する。

2.伝統的犯罪人引渡条約の基本原理

(1)相互主義の原則

 伝統的な犯罪人引渡制度は、犯罪必罰の要請を実現するために「相互主義」(reciprocity)と「主権原理」(principle of State sovereignty)に基づいて行われてきた。すなわち、犯罪の防止と処罰という要請を実現するために、諸国は犯罪人引渡条を締結し、または条約がない場合には、司法的協力によって犯罪人の引渡を相互の間で行ってきたのである。ただし、条約がなければ引渡の義務はなく、引き渡すかどうかは任意の合意によって行われるにすぎない。

(2)主権原則と自国民不引渡

 このような伝統的犯罪人引渡法における主権原則の一つの表現が自国民不引渡の原則である。自国民を引き渡さない理由としてはいくつか指摘されている。すなわち、個人は、自国の裁判官による裁判を受ける権利があるとか、いずれの国家も外国の不公正な裁判から自国民を保護する権利がある、などと言われる。これらの個別の主張の背景的には、国家主権の原理が潜んでいる。

 自国民原則は、主としてヨーロッパ大陸諸国(states of European continent)によって堅持されてきたが、わが国もその影響を受けている。またブラジルも同様である。今後、わが国がブラジルとの間で引渡条約の締結をめざすに当たって、ブラジルが憲法(1988年)によって自国民の不引渡を定めているので、この原則をどのように扱うかの問題は重要であろう。

 この点、国連の「犯罪人引渡に関するモデル条約」(United Nations model treaty on extradition/これは実際の条約ではなく単なるモデルを示した文書である)では、自国民を引き渡すか引き渡さないかは、国家の法制度に従って任意に判断することが認められている。同様に、1957年のヨーロッパ犯罪人引渡条約(European Convention on Extradition6条、米州機構(Organization of American States)の犯罪人引渡条約7条でも、自国民を引き渡すかどうかは、各国の法律制度に従って任意とされている。

 他方、イギリス、アメリカなど属地主義(territorial principle)を伝統的に採用する国家の間では、原則的に犯罪行為地の国家が裁判管轄権を有するとの論理にたっているので、自国民であっても引き渡すこととしている。

 また、EU諸国間では、EU構成国の国民は、域内自由移動の原則が保障されており、その反面、犯罪者が容易に犯行地国から他の国逃亡できる状態が生まれたので、域内各国の間では、自国民であるか否かにかかわらず犯行地国からの引渡請求に対して応じることが原則とされている。

 ここで簡単にまとめておくと、自国民不引渡の原則は国際法上は確立しているとは言えず、あくまでも自国民を引き渡すがどうかは、関係国家の任意によって決められる問題である。自国民を引き渡さない理由としては、主権への固執と他国の司法への不信があると言える。したがって、法の支配、民主主義、公正な裁判等の法的価値を共有する国家の間では、自国民引渡も不可能ではないと考えられる。

 日本とブラジルとの間においては、自国民の不引渡原則は維持したまま、司法共助体制を整備することによって、わが国から逃亡したブラジル人に対してはブラジル刑法上の国外犯として処罰する方法(代理処罰)をとることが一見のところ実際的である。ただし、合理的に考えれば、犯行地国において起訴し、裁判を行う方法が証拠などの面で優れている。また、被害者または遺族の感情が不引渡を許さないかも知れない。したがって、引渡の具体的な条件を整備することによって、引渡を可能とする方法がより優れていると思われる。

3.今日の犯罪人引渡法における人権原則

 伝統的犯罪人引渡法は、国際社会の変容に応じて今日ではさらに変化しつつあるように思われる。すなわち、冷戦の終焉以来、人の移動の迅速化と自由化の傾向によって、犯罪もボーダーレス化しており、特に最近では、国際的組織犯罪(transnational organized crimes)の増加、さらには国際的なテロ事件の頻発によって、従来になく、犯罪人引渡に対する要請が高まっている。迅速かつ円滑な引渡手続が課題とされる一方で、同時に考慮されるべき問題も出てきている。それは、人権、人道上の問題である。

 伝統的な犯罪人引渡条約でも政治犯罪人の不引渡(non-extradition of political offenders)や引渡理由とされる犯罪以外では請求国において処罰されることはないという「特定主義」(principle of speciality)の原則もある意味で人権的考慮に基づいているといえる。

 今日の国際社会においては、各国は各種の人権条約を批准しており、犯罪人引渡条約においても遵守されるべき人権の基準が想定されている。例えば、死刑廃止国から存置国への犯人・容疑者の引渡は、許されないという判例がヨーロッパ人権条約(European Convention on Human Rights)の下であり、その基準は国際人権規約(International Covenant on Civil and Political Rights)においても同様とされている。日本は死刑存置国であり、他方でブラジルは死刑を廃止(abolish)している。したがって、仮に、日本とブラジルとの間の犯罪人引渡条約において自国民を引き渡すと定めたとしても、たとえば日本で殺人を犯してブラジルに逃亡した殺人事件の容疑者について、日本が引渡を要請した場合に、ブラジルは引渡を拒否するかまたは死刑の適用がないとの保証を条件とした場合にのみ引渡が可能となるであろう。

 国連モデル条約では、その他、人種、性、言語等による差別的な取扱いを受ける恐れがある場合にも引渡を拒否することができると定めている。わが国の逃亡犯罪人引渡法および日米犯罪人引渡条約では、類似の規定は存在しないが、こうした不引渡理由が国連モデル条約で取り入れられたのは、多様な国家間での犯罪人引渡が行われるようになるにつれて、この種の懸念が生じたからである。わが国には、外国人に対するそのような取扱いは全くないと言えるかどうか検討を要する問題であろう。例えば、弁護人との間の通信連絡面会における言語的問題の克服、法廷通訳や通訳費用の負担、外国人被告人である場合に限って、一審で無罪となった場合に再勾留が容認されるなどの問題がある。

4.おわりに

 犯罪にどのように対応するかという問題は、ただ単に犯罪人引渡条約の締結だけが問題なのではない。外国人による犯罪を防止するためには、より広く社会一般において、相互の国民に対して十分な尊敬の気持ちをもって共生社会を作り上げていくことが必要であろう。その点で、わが国はブラジルに学ぶべき点があるのではないかと思っている。簡単だが、以上の指摘によって本日の私のコメントを終える。

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2007年3月 1日 (木)

国際刑事法プレ・シンポジウムに参加して

2月は、入試や原稿の仕事で忙しく、記事を更新出来ない状態が続いた。と、思っていたらもう、3月だとは!。

一昨日(2月27日)の夜、弁護士会館で国際刑事法セミナー・プレシンポジウムという催しが行われた。テーマは、「国際刑事裁判所規程への加入が日本の刑事司法を変える!?」というものだ。私もパネリストとして呼ばれ、発言をしてきた。

ちょうど、その日は、閣議で国際刑事裁判所(ICC)規程の批准承認案件を国会に提出することが了解されたというニュースと重なり、良いタイミングだった。国会審議を経て、国際刑事裁判所にわが国が加入することになるだろう。

しかし、国際刑事裁判所なんていうテーマは世の中の話題には今のところほとんど取り上げられていないないし、マスコミの取り上げ方も未だ少ない。そこで、国際刑事裁判所とは何なのか、国際刑事裁判所に加入すると日本は何か変わるのか、を考えるのがこのシンポジウムの目的だった、と思う。ただし、正直のところ、このプレシンポジウムのいう「日本の刑事司法を変える」という発想はややわかりにくかったかもしれないが。

当日の内容は、ICC規程へのドイツの国内対応に関するオステン氏(慶應義塾大・刑事法)の基調講演とパネルディスカッションだった。オステン氏の話は、示唆に富む内容だった。日本と同様に第二次世界大戦の結果敗戦国として連合国による勝者の裁きを受けた経験を有するドイツだが、ICC規程を批准するにあたって、実体法と手続法の双方で国内立法を行った。ICCの対象とする重大犯罪(ジェノサイド、非人道的行為、戦争法規違反)も国内法において罰則化している。わが国は、ICC規程を今回批准するにしても国内法としては、ICCへの犯罪人引渡手続に関する法を準備するだけのようだ。つまりドイツのような実体法を伴う法的対応は準備しない、ということだ。

当然、わが国の対応として手続規定だけで良いのかという疑問もある。日本国憲法上の立場(特に、交戦権の否定)並びに現行法の解釈で対応できるということであろうが、専門的な議論になるのでこの場では避けるが、今後問題にはなるだろう。

また、国際刑事裁判所規程に日本が加わるということは、国際社会(特にアジア諸国)に向けて、侵略戦争をしない、戦争犯罪人も決して出さないという立場を鮮明にするという意味も含むであろう。

戦後長らくの間、ドイツもニュルンベルク裁判アレルギーという症状が残っていたそうだ。国際刑事裁判という考えかたに対する懐疑的な見方だ。日本も同様に東京裁判アレルギーという症状がこれまであった。しかし、国際刑事裁判所規程の批准を期に、わが国もそろそろこのアレルギーから抜け出す時期だ。つまり、日本も外国からたたかれるのを恐れて何も言わないのではなく、非人道的行為、戦争犯罪に対する拒否の姿勢を貫き、国際社会においてこのような犯罪が繰り返されないように努力し、そのための貢献が求められていることを自覚するべきであろう。やや舌足らずかもしれないが、基本的にはそう考えている。

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2007年1月29日 (月)

国際刑事法について

 今週末は原稿書きに費やした。「国際刑事裁判の軌跡と展望」と題する小論を、中央大学の通信教育部用が出している『白門』という雑誌に寄稿する予定である。26日が締切だが、週明けまでは許されると勝手に判断している。学術論文とは違って学生向けの内容ではあるが、書くなると事実確認等でどうしても調べる箇所も少なくない。ようやくまとまったところだ。

 ところでこの国際刑事裁判というテーマは、今年の研究テーマとしてずっと維持されるだろう。あたかも、1月26日の通常国会冒頭での麻生外務大臣の外交方針演説でも、今国会において国際刑事裁判所規程の批准案を提出する予定であることが表明された。国内法の制定などでいかにして裁判所規程の内容を実質的に担保するのかが課題となっているが、国内法の内容が現段階では伝わってこないのが、研究上、はがゆいところだ。

 また、国連では昨年末、12月20日に「強制的失踪からのあらゆる人の保護に関する条約」が採択されたことも国際刑事法の新たな進展である。これは、新聞紙上などでは拉致禁止条約と呼ばれているものである。強制的失踪、enforced disappearanceは、過去にもアルゼンチンやチリの軍事政権の時代に大きな人権侵害として取り上げられてきた。米州機構(OAS)では、1994年に禁止条約(INTER-AMERICAN CONVENTION ON THE FORCED DISAPPEARANCE OF PERSONS)が採択されていたが、今回は国連で採択された。

 国連の条約は、拉致の犯罪化、防止だけでなく被害者保護を謳っている点でより進んだ条項を備えていると思われる。特に我が国では、北朝鮮による拉致事件があるので、この種の条約にしては一般の関心も高いようである。ただし、国連で採択された理由は、北朝鮮ばかりでなく、残念ながら世界各地でまだこの種の拉致、誘拐、強制的失踪の例が後を絶たないからである。
 

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